「就労ビザを持った外国人の方を転職で採用したけど、転職先企業は何か手続きや申請が必要なの?」
昨今、外国人労働者が増加してきたことで、離職者・転職者も増加していると見られ、転職先企業の方からこのようなご相談を受けることがあります。
今回は、既に就労ビザを持っている外国人を、転職先の会社として受け入れる場合、本当に雇用(採用)しても大丈夫なのか?
そして、雇用(採用)してOKの場合の必要な手続きや申請書類について説明いたします。
転職手続き前に、本当にその外国人を雇用しても良いかを確認しましょう
まず雇用開始(採用)する前に、本当にその外国人を雇用しても良いか、転職先として受け入れても良いか、要件を確認することから始めます。
確認方法は、(ア)外国人ご本人様の在留カードと(イ)前職(転職前)の職務内容の書かれた履歴書の2点で確認することができます。
(ア)外国人ご本人様の在留カードで確認
まず、外国人の在留カードを確認します。
在留カードには、上記写真のように、前職の会社と職務内容及び、外国人ご本人の方の経歴を審査され、赤枠の「在留資格」が付与されています。
例えば、「在留資格:技能」が与えられた「前職:母国料理の調理師」だった外国人の方が、「在留資格:技術・人文知識・国際業務」に該当する「職種:貿易事務・海外営業・通訳翻訳業務」に転職することはできません。(※変更申請を行い認められれば転職可能ですが、そのままでは転職できません)
つまり、就労ビザを取得した際に許可を得た在留資格と同じであることが求められます。
こちらがまずはじめに確認することです。
(イ)前職(転職前)の職務内容の書かれた履歴書で確認
次に、就労ビザを取得した際に許可を得た在留資格と同じであったとしても、職種が違う場合、このままでは雇用することができません。
例えば、現在お持ち在留資格が「技術・人文知識・国際業務」であっても、「職種:設計技術者」として前職で働いていた方を、「技術・人文知識・国際業務」に該当する「職種:貿易事務・海外営業・通訳翻訳業務」に転職することはできません。(※変更申請を行い認められれば転職可能ですが、そのままでは転職できません)
つまり、在留資格が同じであるだけではなく、働いて貰う職種まで同じであることが求められます。
ですので、前職(転職前)の職務内容の書かれた履歴書を確認した上で、外国人ご本人からヒアリングをしましょう。
上記2点より、就労ビザを持った外国人の方を転職で採用できるか否かを判断することができます。
なお、判断がつかない場合、心配な場合は、学歴や経歴から該当性を推測することができるので、就労ビザ専門の申請取次行政書士や弁護士の方にご相談されることをお勧めいたします。
特にコンプライアンスを重要視される企業様は、義務ではありませんが、正当に採用した証明する目的で、「就労資格証明書」という証明書を入国管理局から発行してもらうことができ、正当に転職してきた外国人を雇用していることを証明することができます。(※こちらはまた別の記事で解説します。)
では次の章では、問題なく雇用(採用)することができるという場合に必要な手続きについて解説していきます。
転職先企業として外国人を受け入れても良い場合の手続き
それでは、転職先企業として問題なく、就労ビザ(在留資格)をお持ちの外国人の方を雇用(採用)できる場合に必要な手続きについて説明します。
申請書類の提出先は、「ハローワークと「入国管理局」の2箇所あり、ぞれぞれに手続きを行います。
なお、「ハローワーク」への届出は全事業主の義務であり怠った場合は罰則が規定されているので注意が必要です。
なお、「入国管理局」への届出は外国人ご本人の努力義務(努力してくださいという意味)であり怠った場合の罰則は明記されていません。(但し、次回の更新に影響を及ぼす可能性は否定できないので、ご支援させて頂いている企業様へは手続きすることをお勧めしています。)
(ア)ハローワークへの届出が義務付けられている手続き
それではまず、はじめに雇用に関する届出先ハローワークでの手続き及び申請書類を見てみましょう。
厚生労働省のサイトには以下のように記載されています。
「外国人雇用状況の届出」は、全ての事業主の義務であり、外国人の雇入れの場合はもちろん、離職の際にも必要です!
※届出を怠ると、30万円以下の罰金が科されます。
第166回通常国会において「雇用対策法及び地域雇用開発促進法の一部を改正する法律」が成立したことに伴い、平成19年10月1日より、事業主の方に対し、外国人労働者の雇用管理の改善及び再就職支援の努力義務が課されるとともに外国人雇用状況の届出が義務化されました。
注:「外国人雇用状況の届出」は、全ての事業主の義務であり、外国人の雇入れの場合はもちろん、離職の際にも必要です! |厚生労働省より
転職先企業として新たに外国人の方を雇用した場合、ハローワークへの書類提出が義務付けられていますが、外国人留学生のアルバイトを除き、殆どの場合、正社員として雇用されると思いますので、雇用保険への加入義務が発生します。
そのため、通常の日本人労働者と同じく、「雇用保険の被保険者資格の取得届」の提出が必要となります。提出方法は、ハローワークへの持参又はインターネットで申請することができ、ハローワークへの届出は以上で義務が果たされます。
但し、提出する書類自体は日本人を雇ったときと同じで他に特別提出する書類はないのですが、「雇用保険の被保険者資格の取得届」の赤枠欄に「被保険者氏名」「在留期間」「就労区分」「国籍及び国籍コード」「在留資格及び在留資格コード」を記載する必要があります。
※国籍コード及び在留資格コードは一覧ページから確認できます。
雇用する外国人の方から在留カードを見せて貰い、コピーを取り、ご記入ください。なお在留カードのコピーは、期限などを確認の上、会社で保管しておくことをお勧めいたします。
雇用保険に関する手続きは社会保険労務士の独占業務ですので、顧問社労士の方などにご報告頂ければと思います。社会保険労務士の先生との接点がないという方につきましては、外国人雇用に関する手続きを行っている社会保険労務士の方をご紹介させて頂くことも可能です。
また、外国人留学生をパート・アルバイトで雇う、会社の役員になってもらうと言った雇用保険に入らない方については「雇用保険の被保険者ではない外国人に係る届出」をハローワークに提出する必要がありますのでお忘れない様、頂ければと思います。
(イ)入国管理局への届出が求められている手続き
次に、入国管理局への届出についてみていきましょう。
こちらは、(ア)で説明したハローワークへ提出する場合と違い、外国人ご本人が入国管理局へ提出する必要があります。
届出を怠った場合の罰則は特に規定されていませんが、転職者が就労ビザを更新する際に不利になる可能性があるので、ちゃんと申請しておきましょう。
外国人の方は知らないケースが多いので、企業サイドからお知らせされることをお勧めしています。
入国管理局のサイトには以下の通り記載されています。
雇用関係や婚姻関係などの社会的関係が在留資格の基礎となっている中長期在留者の方は,次のとおり,その社会的関係に変更が生じた場合には,その内容を法務大臣に届け出なければなりません。
ただし,こちらの届出を行うのは,平成24年7月9日以降に上陸許可,在留資格変更許可,在留期間更新許可等を受けた方に限ります。
注:「所属機関等に関する届出手続 | 入国管理局」より
上記のように記載されており、「所属(契約)機関に関する届出」という申請書類を提出する必要があります。
提出する申請書類のフォーマットは、前職を退職したことを、「(ⅰ)転職前に届出を出している場合」と「(ⅱ)転職前に届出を出していない場合」の2パターンあります。
(ⅰ)転職前に届出を出している場合
まず転職前に、前職を退職したことを、入国管理局へ提出している場合は、こちらのフォーマットを使用します。本来は、前職を退職してから14日以内に外国人の方ご本人申請する手続きなのですが、出されていないケースも結構あると思われます。
書き方については、左記の写真の通り、「氏名」、「生年月日」、「住居地」、「在留カード番号」などの基本事項を記載し、就労ビザの場合は、「新たな契約を締結した機関」とは「転職先企業」のことを指しますので、転職先企業の情報をご記入ください。
こちらの申請フォーマットは入国管理局のサイトからダウンロードできます。
【申請方法】
- 窓口持参
- 郵送
- インターネット申請
(ⅱ)転職前に届出を出していない場合
そして、転職前に前職を退職したことを、入国管理局へ提出していない場合は、こちらのフォーマットを使用します。
(ⅰ)転職前に届出を出している場合との違いは、「退職した会社情報を記載する欄」があるか否かの違いです。
書き方については、左記の写真の通り、「氏名」、「生年月日」、「住居地」、「在留カード番号」などの基本事項を記載し、「契約が終了した機関」とは「転職元の(退職した)会社」、「新たな契約を締結した機関」とは「転職先企業」のことを指しますので、転職先企業の情報をご記入ください。
また、こちらも届出を提出するのは、転職先企業ではなく、転職した外国人の方ご本人ですが、転職先の会社側も不法就労と間違われないように、提出することを促すことをオススメしています。
やはりこちらも、申請フォーマットは入国管理局のサイトからダウンロードできます。
【申請方法】
- 窓口持参
- 郵送
- インターネット申請
転職時に入国管理局へ届出を出さずに、更新期限を迎える場合
転職前後に入国管理局へ上記の届出を出さずに、更新期限を迎える場合、新規申請するのと同等の審査がなされ、事前に対策しないと不許可になる可能性があると思って頂いた方が良いです。
なぜなら、転職したことの報告もしていない、転職先の会社情報、職務内容も報告していないため、正しく就労しているかわからないためです。
転職有り・無し別で、就労ビザの更新で雇用先企業が行う手続きについても別の記事で解説していますが、
このケースの場合、申請取次行政書士や弁護士に相談することをオススメいたします。
さいごに
既に就労ビザを持っている外国人従業員を転職で雇用(採用)したい場合、ハローワークへは「雇用保険の被保険者資格の取得届」の提出を、入国管理局ヘは「所属(契約)機関に関する届出」を提出しなければなりません。
そして、ハローワークへの「雇用保険の被保険者資格の取得届」は転職先企業に義務付けられており、怠った場合は罰則があります。一方で、入国管理局ヘの「所属(契約)機関に関する届出」は外国人の方ご本人が提出する必要があり、提出することに努めてくださいとありますが、義務付けられてはいません。しかし、努力義務であること、次回の就労ビザ更新に影響を及ぼす恐れがあることから外国人の方へ提出するよう依頼しておきましょう。
外国人の転職に関して心配な場合は、事前に専門家に相談や申請代行する等、不許可にならないよう、要件を満たしているかどうかをチェックしてから入国管理局へ必要書類を揃えて更新手続きすることをオススメします。
クレアスト行政書士・中小企業診断士事務所では就労ビザの転職に関すること、転職有りの更新手続きも得意としてますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。
中小企業診断士/行政書士。製造業の営業職を経て、2015年に独立。行政書士業務は中小企業向けの就労ビザ・経営管理ビザの申請代行(取次)を得意としており、数多くのご依頼を通じてノウハウを蓄積。中小企業診断士業務は、ものづくり製造業やIT企業の経営コンサルティングや公的制度活用(補助金申請や各種認証取得等)のサポートに従事。