外国人を採用する際も、日本人の時と同様に、労働条件を明示し雇用契約書を締結しておく必要があります。

しかし、外国人を雇用する際、特有の注意点もある上、就労ビザ申請時に入国管理局に提出する必要もあります。

ここで、この記事では、雇用契約書・労働条件通知書の書き方、注意点、2024年の法改正の内容等を、記載例(サンプル)共に詳しく解説いたします。また、よくある質問(QA集)にも回答していますので、併せてご確認ください。

労働条件通知書は義務、雇用契約書は義務ではない

労働条件通知書 雇用契約書
法的義務 法的義務
労働基準法第15条第1項
法的義務はない
違い 会社が労働者に対して一方的な通知(双方合意した証拠ではない)
※労働者の署名又は押印はない
双方が合意したことを証明する契約書
※双方の署名又は押印がある

労働基準法第15条第1項には、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と規定されています。
そのため、労働条件通知書を作成することは法的義務となっています。

一方、雇用契約書は、双方が合意したことを証明する書類ではありますが、法的義務はありません

記載内容がほぼ同じであることから、「労働条件通知書兼雇用契約書」とし、①法的義務を果たす、②双方が合意したことを証明するといった形を取ることをオススメしています。

なお、入国管理局へ提出する書類は、労働条件通知書、雇用契約書、労働条件通知書兼雇用契約書のいずれでも構いません。

労働条件通知書兼雇用契約書の絶対的明示事項

まずは、採用時に労働条件を明示しなければならない項目について解説いたします。
絶対的明示事項は、厚生労働省のページに記載があります。

(1)労働契約の期間に関する事項
(2)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(※1)
(3)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
(4)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
(5)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(6)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

(※1)(2)については期間の定めのある労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合がある者の締結に限り、明示する必要があります。
注:「厚生労働省 採用時に労働条件を明示する事項」より

上記の項目は、絶対に明示しないといけない事項です。
また、会社に定めがある場合は、上記以外にも明示すべき項目がありますので、厚生労働省のリンク先ページをご確認ください。

2024年4月の法改正で義務付けられたこと

2024年4月の法改正で明示ルールが改正された点は3点あります。

通常の(無期契約の)正社員の場合は、1つ目のみ押さえていただければOKです。

就業場所・業務の変更の範囲(全労働者が対象)

1つ目は、①就業場所、②業務の変更の範囲を明示することです。

①就業場所については、雇入れ直後の勤務場所を明記することです。特に、本社の他に、支店や営業所等が複数ある場合はご注意ください。
②業務の変更の範囲については、業務に限定のない場合は「すべての業務への配置転換あり」等と明記していただき、限定がない場合は「商品企画・設計及びそれに付随する業務」等としてください。

更新上限の有無と内容(有期契約の場合のみ)

2つ目は、有期契約者(契約社員等)の場合のみ対象となる事項です。

更新上限の有無と内容を明記することが義務付けられ、
更新上限がない場合は「なし」、ある場合は「契約の更新回数は3回まで」等と明記する必要があります。

無期転換の申込機会・無期転換後の労働条件(無期転換申込権が発生する有期契約の場合のみ)

3つ目は、無期転換申込権が発生する有期契約労働者のみ対象となる事項です。

無期転換申込機会については、「契約期間中に無期労働契約締結の申込みをした時は、本契約期間満了の翌日から無期雇用に転換することができる。」等と、
無期転換後の労働条件については、「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」等と明示する必要があります。

外国人と雇用契約する際、特有の注意点

日本人と同等の給与を支払うこと

1つ目は、給与やその他待遇を、国籍で区別・差別しないことです。

能力によって賃金や待遇を変えることは差支えありませんが、給与やその他待遇を、国籍で区別・差別することはNGです。
その他の注意点を含め、詳しくは、下記の記事に書いてありますのでご参照ください。

日本語が理解できない場合は翻訳文をつけるか、併記する

日本語の理解力が乏しい外国人を採用する際は、母国語を併記するなど、外国人に内容が伝わるよう努めましょう。
入国管理局の審査官が審査期間中に、外国人に直接電話連絡することがあり、労働条件等の質問に回答できなければ、不許可になる可能性がありますので、ご注意ください。
外国語併記のテンプレートについては、厚生労働省HPで公開されていますので、ご参考ください。

在留資格の許可を得ることを条件として書いておく

万が一、外国人が就労ビザを取得できなかった場合、雇用契約は成立しないという条件を入れておくことは、外国人労働者特有の注意点です。

採用予定の外国人の方に、(会社が把握していないところで)違反歴などがあり、就労ビザが取得できない可能性もあります。また、就労ビザ取得後、何らかの事情で在留資格を更新できなくなる可能性もあります。

そのため、「本契約の効力は、在留資格の許可を得ることを条件とする」、「在留資格を喪失した場合は、本契約を終了する」等と明記しておきましょう。

日本人・外国人問わず、気を付けること

最低賃金を下回らない(毎年10月に改正)

ここ数年、毎年10月に最低賃金が改定されます。

最低賃金は時給で記載されていますが、月給者についてはも時給換算額で計算し、最低賃金を下回っていたら違反となります。

月給者については、「(月給)÷(月の所定労働時間)=時給換算額」となりますので、ご注意ください。

(a)最低賃金となる手当とならない手当

上記の月給には、基本給の他、手当も含まれることもあります。

ただし、毎月固定的に支払われる”役職手当”や”資格手当”等は含まれますが、”時間外勤務手当”や”精皆勤手当”等は含まれません。

割増賃金

2023年4月1日から「中小企業の月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%以上」に引き上げらてれます。

有期契約の上限

1回の契約期間の上限は、原則として3年です。上限を超えた有期契約にならないようご注意ください。
※ただし、専門的な知識等を有する労働者、満60歳以上の労働者との労働契約については、上限5年です。

雇用契約書兼労働条件通知書の見本(サンプル)

雇用契約書兼労働条件通知書の見本(サンプル)は次の通りです。
クリックすると、PDFでダウンロードできます(コピペできます)

雇用契約書兼労働条件通知書

雇用契約書兼労働条件通知書に関する疑問

雇用開始日(試用期間がある場合はその開始日)はいつにしたらいいですか?
「就労可能な在留資格の許可され、日本に入国した日より」や「就労可能な在留資格の許可された日以降」などとしていただければと思います。
就労ビザが取れなかったら無効にできますか?
備考欄等に「就労可能な在留資格を取得することを停止条件とする」などと記載すれば、就労ビザが取得できなければ無効となります。
就労ビザ更新時に、何らかの事情で更新不許可になった場合は、契約解除できますか?
備考欄等に、「在留資格を喪失した場合は、本契約は終了するものとする。」等と記載すれば、契約終了となります。
有期契約の契約社員でも就労ビザは取得できますか?
はい。できます。ただし、1年以上の有期契約にしていただく必要がございます。また、1年間の契約の場合、取得できる在留期限は1年になる可能性が高いです。
雇用契約書(労働条件通知書)に業務内容を変更する旨を明記した場合、外国人に対して、当初予定した業務以外のことをしてもらってもよいですか?
いいえ。就労ビザ申請で行うと記載した業務しか行うことができません。例えば、技術・人文知識・国際業務ビザを設計技術者として取得した場合、現場作業員等の業務に変更することはできません。但し、該当する別の在留資格がある場合、変更申請が許可されれば働くことができます。

さいごに

この記事では、この記事では、雇用契約書・労働条件通知書の書き方、注意点、2024年の法改正の内容等を、記載例(サンプル)共に詳しく解説いたしました。
就労ビザの許可を取得できるか否かは、相談や申請代行(取次)する専門家の技量も大きく関わってくることがあるので、信頼できる行政書士などの専門家にご相談することをお勧めいたします。弊所では、就労ビザ・経営管理ビザの申請代行(取次)を得意とする行政書士事務所及び中小企業診断士事務所です。お困りの際はご相談ください。